なぜ、4色で足りる? 塗り絵から始まる数学の探究

いくつかの区域に分かれた、白い地図。まずは、次のルールで塗ってみます。
- となり合う区域は、違う色で塗る。
- できるだけ少ない色で、全部の区域を塗る。
ここでいう「となり」とは、境界線を共有していることです。点で触れているだけなら、となりとは数えません。
境界線を共有している区域どうしには同じ色を使えません。一方、角の一点だけで触れている区域どうしなら、同じ色を使うことができます。
少ない色で塗るには?
まず、一つの区域を1色目で塗ります。そのとなりには同じ色を使えないので、2色目を使います。1色目と2色目の両方に接する区域には、3色目が必要です。
次の区域を塗るときは、すでに塗った区域との関係を確かめます。1色目の区域と接していなければ、1色目をもう一度使えるかもしれません。新しい色を増やす前に、次のことを見てみます。
- どの区域と、となり合っているか
- となりでは、何色を使っているか
- すでに使った色を、もう一度使えないか
途中で使える色がなくなったら、前に塗った区域へ戻ってみます。前の色を変えると、その先を塗れることがあります。塗る。確かめる。戻る。また試す。 一つの区域だけを見るのではなく、全体のつながりを見ながら進めます。
単純な図でも、区域のつながり方によって、必要な色数は2色、3色、4色と変わります。
では、その先はどうでしょう。区域がもっと増えたり、もっと複雑につながったりしたら、5色目、6色目と、さらに多くの色が必要になるのでしょうか。
地図では、何色必要?
今度は、単純な図ではなく、区域が入り組んだ地図で試してみます。
PDFには、形やとなり方の異なる地図A・地図B・地図Cがあります。それぞれ、となり合う区域を違う色にしながら、できるだけ少ない色で塗ってみてください。
- 何色で塗れた?
- 新しい色が必要になったのは、どこ?
- 前に塗った色を変えると、色数を減らせる?
- 同じ色数で、別の塗り方もできる?
最も少ない色で塗ると、必要な色数はそれぞれ違います。
地図B:3色
地図C:4色
同じルールで塗っても、必要な色数は地図によって違います。区域が多いか少ないかだけではなく、どの区域とどの区域が、となり合っているかによって変わります。
では、地図がどれだけ複雑になっても、必要な色数には上限があるのでしょうか。
区域が増え、となり方がもっと複雑になれば、5色、6色、7色……と必要な色も増え続けるのでしょうか。
それとも、どんなに複雑な地図でも、ある色数までで必ず塗り分けられるのでしょうか。
1852年、同じ問いを考えた人がいた
この問いを、1852年に考えた人がいました。ロンドンで数学を学んでいたフランシス・ガスリーです。
ガスリーはイングランドの地図を塗る中で、4色あれば、どんな地図でも塗り分けられるのではないかと考えました。
そして、
「どんな地図でも、本当に4色で足りるのか」
という問いを立てます。この問いは、のちに「四色問題」と呼ばれるようになります。
問いそのものは、とてもシンプルです。しかし、いくつかの地図で4色あれば足りたからといって、すべての地図について同じことが言えるとは限りません。
数学者たちは、この四色問題に長い間挑み続けました。答えが出たのは1976年。問いが生まれてから、124年後でした。
その間には、正しいと思われた証明に誤りが見つかることもありました。新しい考え方が試され、見直され、また別の方法が考えられる。そうした研究が124年間続きました。
四色問題から、四色定理へ
1976年に証明されたのは、「どんな平面地図も、4色以内で塗り分けられる」ということです。
長く「四色問題」として問い続けられてきたこの命題は、正しいことが証明され、「四色定理」となりました。
ここでいう「4色以内」は、すべての地図に必ず4色を使うという意味ではありません。2色で塗れる地図もあれば、3色必要な地図もあり、4色必要な地図もあります。
しかし、5色以上が必要な平面地図はありません。
また、四色定理が扱うのは、紙の上を境界線でいくつかの区域に分けた平面地図です。どんな図形や模様でも4色で塗れる、という意味ではありません。
どうやって「どんな地図でも」を確かめたの?
ここで、もう一つ疑問が残ります。地図はいくらでも作ることができるのに、どうやって「どんな地図でも4色で足りる」と確かめたのでしょう。
考えられる地図を、一枚ずつ塗って確かめたわけではありません。100枚、1万枚、1億枚を試しても、まだ試していない地図が残るからです。
「今まで試した地図では4色で塗れた」ことと、「すべての地図が4色で塗れる」ことは違います。
数学者たちは、地図を一枚ずつ調べるのではなく、どんな地図にも共通する構造を数学的に整理し、証明のために調べる必要のある場合を有限個に絞り込みました。
その数は、人の手だけで一つずつ確認するには非常に多いものでした。そこで、その確認にコンピューターの計算を使います。
1976年、数学者のケネス・アッペルとヴォルフガング・ハーケンが、コンピューターによる確認を組み込んだ証明を完成させました。
つまり、コンピューターが世界中の地図を一枚ずつ塗ったわけではありません。数学によって問題を整理し、調べる場合を有限個に絞ったうえで、その確認にコンピューターを使ったのです。
ここで大切なのは、証明の細かな方法を覚えることではありません。
「たくさん試したら、全部うまくいった」だけでは、まだ終わらない。
試していない場合も含めて、なぜ「いつも成り立つ」と言えるのか。その根拠まで考えるところに、数学の探究があります。
一つの問いから、数学の探究へ
ここまでたどってきた流れそのものが、数学の探究です。
まず、塗ってみる。違いに気づく。「ほかの地図では?」と問う。さらに、「必要な色数には上限があるのでは?」と予想する。そして、別の地図で試し、結果を比べます。
そこで終わらず、「これだけで全部と言える?」と考え直す。さらに根拠を探す。そこから、また新しい問いが生まれます。
SheSTEMが探究学習で重視しているのも、問いを立て、予想し、試し、比べ、結果から考えを更新していく過程です。
四色定理は、どんな数学?
四色定理で大切なのは、区域の形そのものではなく、どの区域とどの区域が、となり合っているかという関係です。
そこで数学では、その関係を点と線に置き換え、地図を単純化して考えます。
- 一つの区域を、一つの点にする
- となり合う区域どうしを、線で結ぶ
区域の数だけ点を置き、となり合う区域の点どうしを線でつなぎます。線で結ばれている点には違う色を使い、線で結ばれていない点には同じ色を使うことができます。
このように、点と線で「つながり」を表して考える数学を、グラフ理論といいます。
地図を点と線に置き換えると、線が交差しないように平面上に描けるグラフになります。このようなグラフを「平面グラフ」といいます。
グラフ理論の言葉では、四色定理は次のように表すことができます。
平面上で線を交差させずに描けるグラフは、4色以内で点を塗り分けられる。
四色定理は、離散数学・組合せ論・グラフ理論の中で研究される、平面グラフの彩色に関する定理です。
一方、複雑なグラフを効率よく塗り分ける方法を考えることは、アルゴリズムや離散最適化などの応用数学にもつながっています。
身近な地図の塗り分けの先に、大学で研究される数学があります。
親子で広げる問い
塗っている途中では、こんな問いから考えを広げられます。
- この区域は、どこととなり合っている?
- すでに使った色を、もう一度使えない?
- 新しい色が必要になったのは、どこ?
- ここを別の色に変えると、どうなる?
- 塗る順番を変えたらどうなる?
何枚か塗ったあとは、こんなことも考えられます。
- ほかの地図でも同じだった?
- どんな地図なら、2色で塗れそう?
- 4色目が必要になるのは、どんなとき?
- もっと複雑な地図なら、何色必要だと思う?
- 必要な色数には上限があると思う?
- どうすれば「どんな地図でも」と言える?
「どこを見て、そう考えたの?」と聞くと、塗った結果だけでなく、考えた過程が見えてきます。
一枚の塗り絵の先に
地図の塗り分けで見ているのは、単なる色の組み合わせではありません。どことどこがつながっているか。どの色をもう一度使えるか。一か所を変えると、ほかの場所にどんな影響が出るか。見えているものから、関係や構造を捉えて考えています。
ここで働いているのが、SheSTEMが「6つの思考のOS」の一つとして整理している「構造視覚推論」です。区域どうしのつながりや全体の構造を見ながら考え、塗り方を試し、理由を言葉にする過程では、ほかの思考のOSも使われます。
1852年に一枚の地図から生まれた、「本当に、どんな地図でも4色で足りるの?」という問い。その問いに数学者たちが答えるまで、124年かかりました。
身近な塗り絵でも、答えを知って終わるのではなく、「なぜ?」「ほかでも同じ?」「どうすれば、いつもそうだと言える?」と考えていくと、その先に数学があります。
塗り絵から始まる、数学の探究。
参考資料・出典
- Tim Bell, Ian H. Witten, Mike Fellows, Computer Science Unplugged, Activity 13: “The Poor Cartographer—Graph Coloring,” 1998.
- Robin Thomas, “The Four Color Theorem”
- Mathematics Subject Classification 2020
- Society for Industrial and Applied Mathematics, “Discrete Mathematics”

