見えにくい学びの変化を、どう捉えるか
探究学習の成果は、テストの点数のように、一つの数字で簡単に表せるものではありません。
問いを立てる。仮説を持つ。情報を集めて分析する。複数の情報をつなげて考える。他者との対話から考えを更新する。そして、自分の探究を振り返る。
こうした探究の過程では、さまざまな思考や行動が重なり合っています。また、同じ子どもでも、取り組むテーマや経験によって、その現れ方は変わります。
そのため、探究によって生まれる変化のすべてを、一つの数値で表すことはできません。
SheSTEMが目指すのは、探究する力を一つの点数に置き換えることではありません。
探究の前と後で、その子自身の問いの立て方や考え方、行動に、どのような変化が見られたのか。
探究の過程に残された記録からその変化を捉え、本人が次の学びにつなげられる形で可視化し、フィードバックします。
探究学習の成果は、なぜ見えにくいのか
通常のテストでは、問題に対する正解・不正解をもとに点数を出すことができます。
しかし、探究学習では、最終的に同じような成果物をつくった二人でも、そこに至るまでのプロセスは異なります。
一人は、最初から与えられた問いに沿って進めたかもしれません。もう一人は、調べる中で新しい違和感に気づき、途中で問いそのものを変えたかもしれません。
完成した成果物だけを見れば、この違いは見えません。
そのためには、成果物だけでなく、探究の途中に残されたさまざまな記録を見る必要があります。
「良い・悪い」ではなく、その子自身のBefore/Afterを見る
SheSTEMの探究学習評価は、子ども同士を比較し、誰が優れているかを順位づけするためのものではありません。
また、一度の評価によって、
「この子は問いを立てる力が高い」
「この子は分析する力が低い」
と、その子の能力を固定的に判定するものでもありません。
見るのは、その子自身の変化です。
例えば、探究を始めた段階では、与えられた問いについて情報を集めていた子が、探究を進める中で、
「そもそも、なぜこうなっているのだろう」
と新しい問いを持つようになる。
最初は一つの情報だけで考えていた子が、複数の情報やデータを比較して考えるようになる。
自分の考えだけで進めていた子が、他者の意見を取り入れ、もう一度考え直すようになる。
SheSTEMが捉えたいのは、こうした探究を通じた一人ひとりの質的な変化です。
8つの視点から、探究の変化を捉える
探究のプロセスは、一つの力だけで成り立っているわけではありません。
SheSTEMでは、探究の過程で見られた思考や行動を、8つの視点から捉えます。
この8つは、子どもの能力に順位をつけるための項目ではありません。
探究の前後で、それぞれの思考や行動にどのような変化が見られたのかを確認するための共通の視点です。
8つの視点で「何を見るか」、5段階で「変化の現れ方」を整理する
SheSTEMでは、探究の変化を「問い・仮説・分析・統合・表現・協働・創造・省察」の8つの視点から見ます。
ただし、8つの視点があるだけでは、探究の前と後で何が変わったのかを共通の基準で捉えることはできません。
例えば、同じ「問い」という視点でも、
「なんとなく気になった」という段階から、
「なぜだろう」と疑問を持つ。
何を確かめたいのかを整理する。
調べた結果から問いを深める。
さらに新しい問いを生み出す。
というように、探究の中で思考や行動の現れ方は変化していきます。
そこで、8つの視点それぞれについて、今回の探究の中でどのような思考や行動が確認されたのかを整理するための共通の目安として、5つの段階を設けています。
- 初期 ─ 気づき・関心
まず何かに気づき、関心を持ち始める。 - 発展途上 ─ 試行・理解
自分なりに考えたり試したりしながら、理解を深めていく。 - 基礎的 ─ 構造化・整理
情報や条件を整理し、筋道を立てて考えられるようになる。 - 応用的 ─ 活用・深化
得た知識や考え方を使い、比較したり組み合わせたりしながら考えを深める。 - 創造的 ─ 新たな価値の創出
これまでの考えをもとに、新しい問い、方法、考え方や価値を生み出す。
5段階は、子どもを5つのレベルに分けるものではありません
ここで大切なのは、「この子はレベル3」という評価をするのではないということです。
例えば「問い」では大きな変化が見られても、「協働」ではまだ変化が小さいことがあります。また、別のテーマに取り組めば、同じ子どもでも異なる思考や行動が表れることがあります。
つまり、
8つの視点=何を見るか
5段階=その視点について、どのような思考や行動が表れたかを整理する目安
という関係です。
そして、探究前の記録と探究後の記録を同じ視点・同じ目安で見比べることで、
「問いを立てる力が3点になった」
ではなく、
「最初は気になったことを挙げる段階だったが、探究後には、比較した結果をもとに新しい問いを立てるようになった」
というように、その子自身のBefore/Afterを具体的な変化として捉えます。
探究の過程に残された「記録」を評価の根拠にする
その子自身の変化を捉えるためには、探究の途中を残す必要があります。
評価の材料になるのは、例えば次のような記録です。
- 発言・発話・記録
- 振り返り文・マインドマップ
- データ・表・グラフ
- 写真・動画
- 作品・成果物・制作物
- 修正履歴
- 探究後の振り返り
大切なのは、きれいに完成したものだけではありません。
最初はどう考えていたのか。
途中で何に気づいたのか。
どの情報によって考えが変わったのか。
対話によって、何を考え直したのか。
こうした変化の痕跡そのものを、評価の根拠として扱います。
AIは評価を決めない。最終評価は人が行う
探究の過程では、多くの記録が生まれます。
SheSTEMでは、AIを活用してそれらの記録を整理し、8つのルーブリックと評価基準に照らした評価案や、根拠となる記録の候補を整理します。
ただし、AIが子どもの評価を自動的に決定するわけではありません。
-
記録を収集・整理する
探究の過程で外化されたさまざまな記録を集めます。 -
共通の評価条件を設定する
8つのルーブリック、5段階の評価基準、評価の観点をそろえます。 -
AIが評価案と根拠候補を整理する
記録をもとに、評価案と参照すべき箇所を整理します。 -
人が根拠を確認し、最終評価する
記録そのものを確認し、文脈や年齢、発達段階も踏まえて最終的に判断します。 -
変化を可視化し、本人へ返す
Before/Afterの変化を、次の学びにつながるフィードバックとして返します。
AIは評価を決定するためではなく、多くの記録から評価の根拠を整理し、人による確認を支援するために活用します。
Before/Afterを可視化し、次の学びに返す
最終的な可視化では、8つの視点について、探究の前と後の状態を重ねて示します。
ここで見るのは、
「どの項目の点数が高いか」
ではありません。
例えば、
変化したこと
与えられた問いを追うだけでなく、自分なりの問いを立てるようになった。
その根拠
比較したデータから新たな違いに気づき、途中で問いを書き換えている。
次の一歩
新しく立てた問いについて、自分なりの仮説を持ってから確かめてみる。
このように、レーダーチャートの数値だけではなく、
変化したこと・その根拠・次の一歩
を合わせて本人に返します。
評価の目的は、学びを終わらせることではない
探究学習の評価は、子どもに点数をつけ、学びを終わらせるためのものではありません。
また、探究によって生まれたすべての変化を、数値として証明できるものでもありません。
可視化できるのは、あくまで探究の過程に残された記録から確認できる変化です。
だからこそSheSTEMでは、評価結果を、
「あなたは何点だったか」
ではなく、
「今回の探究で、あなた自身がどのように変わったか」
として本人に返します。
自分の変化に気づく。
次に試したいことを考える。
そして、また新しい問いを持つ。
評価を、次の探究の入口にする。
SheSTEMは、探究する力を一つの数字で判定するのではなく、探究の過程に残された記録から、一人ひとりに起きた変化を捉え、次の学びにつなげる評価・可視化モデルの構築を進めています。
OECDは、問題解決、創造性、自己調整、協働などの複雑な能力について、測りやすいものだけではなく重要な能力を評価すること、成果だけでなく学習過程から得られる複数の情報を評価の根拠として活用することの重要性を示しています。
文部科学省の教学マネジメントに関する議論でも、学修成果の把握・可視化は有益である一方、すべての学修成果を把握できるわけではなく、把握した成果のすべてを可視化できるわけでもないことが指摘されています。
・OECD『Innovating Assessments to Measure and Support Complex Skills』(2023)
・文部科学省 中央教育審議会「教学マネジメント特別委員会(第7回)議事録」
