探究学習という言葉を聞くと、自由研究や調べ学習、発表活動を思い浮かべる方も多いかもしれません。
けれど、本来の探究学習は、好きなテーマを自由に調べて終わる学びではありません。
探究学習とは、身近な出来事や違和感から問いを立て、必要な情報を集め、根拠をもとに考え、自分の理解を更新していく学びです。
大切なのは、最初から正解にたどり着くことではありません。何に気づき、なぜそれを問い、何を根拠に考え、考えがどう変わったのか。その一連のプロセスが、探究学習の中心にあります。
目次
1. 探究学習とは
探究学習とは、あらかじめ用意された正解を覚えるだけではなく、子ども自身が問いを立て、情報を集め、整理し、考えを深め、自分の言葉で表現していく学びです。
文部科学省は、探究的な学習の過程を 「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」 と整理しています。ただし、この流れは一度きりの手順ではありません。前後したり、一体化したりしながら繰り返され、学びが深まっていくものです。
探究学習とは、「調べてまとめること」ではありません。
問いを立て、根拠を集め、考えを更新していく学びです。
2. 自由研究・調べ学習との違い
探究学習は、子どもに「好きなことを調べてきて」「自由に発表して」と任せるだけの学びではありません。
もちろん、自由研究や調べ学習の中にも、探究につながる要素はあります。ただし、調べたことをきれいにまとめるだけでは、探究学習としては十分ではありません。
探究学習で大切なのは、テーマの自由さよりも、考えの進め方です。
自由研究・調べ学習に寄りやすい流れ
- 好きなテーマを選ぶ
- インターネットや本で調べる
- わかったことをまとめる
- 発表する
探究学習で大切にしたい流れ
- 現実を見る
- 違和感や疑問に気づく
- 問いを立てる
- 仮説を持つ
- 情報や根拠を集める
- 整理・分析する
- 考えを見直す
- 自分の言葉で表現する
つまり、探究学習は「自由にやる学び」ではなく、子どもが自分で考えを進められるように、問い・情報・対話・振り返りを設計する学びです。
国際バカロレアの調査 でも、探究型の学びは、学習者の問いや関心を、概念理解や深い学びにつなげる教育設計として扱われています。
国際バカロレアとは
国際バカロレアは、世界各国で導入されている国際的な教育プログラムです。知識の習得だけでなく、問いを持ち、考え、他者と関わりながら学ぶ姿勢を重視しています。詳しくは 国際バカロレア機構の公式サイト をご覧ください。
3. 問いを見つけることの重要性
探究学習というと、「課題を解決する力」と説明されることがあります。もちろん、課題を解決する力は大切です。
ただし、その前にもっと大切なことがあります。それは、何を問うべきかを見つける力です。
たとえば、子どもに「空き教室の有効活用法を考えましょう」という課題を出したとします。これは一見、探究的な課題に見えます。しかし、この問いにはすでに「空き教室が問題である」という前提が入っています。子どもは、その前提を疑うことなく、活用案を考えることになります。
一方で、「昼休みの廊下で、立ち止まりが重なるのはなぜだろう?」という問いならどうでしょうか。
この問いでは、まず現場を見る必要があります。どの時間に人が止まるのか。どの場所で流れが止まりやすいのか。誰が困っているのか。掲示物、教室配置、友人関係、移動のルールなど、どんな要因が関係しているのか。
このように、探究学習では、最初から問題文が与えられるのではなく、現実を観察し、違和感に気づき、それを問いにしていくことが重要です。
与えられた課題に答えるだけではなく、そもそも何を問うべきなのかを見つけること。
ここに、探究学習の大きな意味があります。
4. 日本の学びで不足しやすい経験
日本の学校教育でも、探究的な学びの重要性はすでに示されています。 文部科学省は、探究的な学習を、課題発見・解決能力、論理的思考力、コミュニケーション能力などの育成に資する学習過程 として整理しています。
一方で、実際の学びの場では、探究学習が「調べ学習」や「発表活動」に寄りやすいことがあります。
従来の学びでは、問題は最初から与えられていることが多くあります。条件も与えられています。正解も決まっています。そして、早く、正確に解くことが評価されやすい。
もちろん、知識を覚えること、計算できること、文章を読めることは大切です。基礎的な学力がなければ、深く考えることも難しくなります。
ただ、それだけでは、子どもは「自分で問いを立てる経験」を十分に積みにくい面があります。
- なぜこれが問題なのか
- 何を確かめればよいのか
- どんな情報が必要なのか
- どの根拠を信じてよいのか
- 考えをどう見直せばよいのか
こうした経験は、問題を解く力とは少し違います。探究学習は、正解のない学びではありません。正解がすぐに与えられない状況で、どう考えを進めるかを学ぶ学びです。
5. 認知能力を実際に使う学び
探究学習は、知識を使わずに自由に考える学びではありません。
むしろ、探究学習では、読む、比べる、分類する、数える、分析する、根拠を整理する、説明する、といった認知能力を実際に使います。
たとえば、学校の中で「なぜ、この場所だけ混雑するのか」と考えるとします。
子どもは、まず観察します。どの時間に混むのか。どこで人の流れが止まるのか。何人くらいが立ち止まっているのか。どの方向から人が来るのか。誰が困っているのか。
次に、情報を比べます。曜日によって違うのか。時間帯によって違うのか。場所によって違うのか。掲示物や教室配置が関係しているのか。友達同士の待ち合わせが関係しているのか。
ここでは、観察する力、数える力、比べる力、分類する力、根拠を整理する力が使われています。
探究学習は、知識の暗記と対立するものではありません。
知識や考え方を、実際の問いに向き合う中で使う学びです。
6. その過程で非認知能力も育つ
探究学習では、問いに向き合う中で、認知能力を実際に使います。ただし、探究は一度でうまく進むとは限りません。
最初に立てた仮説が違っていることもあります。集めた情報だけでは判断できないこともあります。友達と意見が分かれることもあります。思っていた結果と違う結果が出ることもあります。
そのときに必要になるのが、学びを続ける力です。
- もう一度観察する
- 別の条件で比べる
- 自分の思い込みに気づく
- 他者の意見を聞く
- うまくいかなかった理由を振り返る
- 考えを修正する
このような経験を重ねる中で、粘り強さ、自己調整力、協働性、メタ認知、自分の行動を振り返る力などの非認知能力も育まれていきます。
非認知能力についてはこちらのページでも詳しく解説しています。
探究学習の中心にあるのは、問いを立て、根拠をもとに考え、考えを更新していくプロセスです。そのプロセスの中で、認知能力が使われ、結果として非認知能力も育っていきます。
ここに、探究学習の大きな価値があります。
英国の Education Endowment Foundationは、メタ認知や自己調整について、学習者が自分の学びを計画し、進め方を確認し、振り返る力 として整理しています。また、これらは学習にとって重要である一方、授業の中で意図的に支える必要があるとされています。
7. 測りにくいからこそ、過程を見る
探究学習は大切ですが、測るのが難しい学びでもあります。
なぜなら、探究学習では、テストのように「正解か不正解か」だけでは判断できないからです。
同じテーマでも、子どもによって問いの立て方が違います。集める情報も違います。考え方の道筋も違います。他者との対話の中で、考えが変わることもあります。途中でうまくいかなかったことが、むしろ深い学びにつながることもあります。
たとえば、2人の子どもがいたとします。
1人目の子は、きれいな発表資料を作り、スムーズに発表しました。しかし、内容は調べた情報を並べただけで、自分の問いや根拠があまり見えませんでした。
2人目の子は、発表は少し不器用でした。しかし、観察から自分なりの問いを立て、仮説を変えながら、根拠をもとに考えを深めていました。
従来の発表評価では、1人目の子が高く見えるかもしれません。しかし、探究学習として見れば、2人目の子の中に大きな学びが起きている可能性があります。
だからこそ、探究学習では、完成度だけを見るのではなく、考えの過程を見る必要があります。
見るべきなのは、たとえば次のような点です。
- 問いは、自分の観察や違和感から生まれているか
- 仮説は、思いつきではなく確かめられる形になっているか
- 情報を集めるだけでなく、比べたり、整理したりしているか
- 複数の根拠をつなげて、自分なりの見立てを作っているか
- 自分の考えを、相手に伝わるように説明できているか
- 他者の意見を聞き、考えを広げているか
- うまくいかなかったことを振り返り、次の改善につなげているか
探究学習を評価するとは、単に点数をつけることではありません。
子どもの考えがどこで深まり、次にどこを伸ばせるのかを見ることです。
8. 具体例
たとえば、学校で「給食の食べ残しを減らす」というテーマを扱うとします。
よくある調べ学習では、食品ロスについて調べ、「食べ残しを減らしましょう」と発表して終わるかもしれません。
しかし、探究学習として設計するなら、進め方は変わります。
まず、実際に観察する
- どのメニューの日に残りやすいのか
- どの学年で残りやすいのか
- 食べる時間は足りているのか
- 量が多いのか
- 味の問題なのか
- 配膳の仕方が関係しているのか
- 友達との会話や教室の雰囲気が関係しているのか
次に、問いを立てる
- なぜ、特定のメニューの日だけ食べ残しが増えるのか
- 食べる時間と残食量には関係があるのか
- メニューの説明が変わると、食べる量は変わるのか
そして、仮説を立てる
- 「味が嫌いだから」ではなく、実は食べる時間が短いのではないか
- 量が多いのではなく、配膳に時間がかかっているのではないか
- メニュー名から味のイメージが持てず、最初から手をつけにくい子がいるのではないか
さらに、情報を集める
- 残食量を記録する
- 食べる時間を測る
- アンケートを取る
- 配膳の流れを見る
- 給食担当の先生に聞く
最後に、整理・分析し、改善案を考える
残食が多い日は、味だけでなく、配膳時間や食べる時間も関係しているかもしれない。好き嫌いだけでなく、見た目や名前の伝わり方も関係しているかもしれない。
そこから、メニュー紹介カードを作る、配膳の手順を変える、食べる時間を確保する方法を考える、量の調整を選べるようにする、といった改善案につながっていきます。
この一連の中で、子どもは知識を覚えているだけではありません。観察する、数える、比べる、分類する、理由を考える、仮説を変える、相手に聞く、根拠をもとに説明する、改善する。
これが探究学習です。
楽しい体験で終わるものではなく、考える力と、学びを進める力が同時に動く学習設計です。
9. PBLとの関係
探究学習とPBLは近い言葉ですが、まったく同じ意味ではありません。
探究学習は、問いを立て、根拠を集め、考えを更新していく学び方です。
PBLは、その探究学習を、具体的な課題やプロジェクトとして設計する方法です。
たとえば、地域の公園をもっと使いやすくするには。雨の日の通学を安全にするには。小学生が使いやすい文房具とは。高齢者が開けやすいパッケージとは。
こうした具体的な課題に対して、観察、調査、試作、検証、発表、改善まで進めると、PBLとしての探究になります。
ただし、PBLは活動が大きく見えるため、完成物や発表に目が向きやすくなります。本当に見るべきなのは、完成物の見栄えだけではありません。
- どんな問いから始まったか
- 何を根拠に考えたか
- どう試したか
- うまくいかなかったことから何を変えたか
- 他者の視点をどう取り入れたか
ここを見ることで、PBLは単なる工作やイベントではなく、探究学習になります。
PBLWorksは、Project Based Learningを、子どもが現実に近く、自分にとって意味のあるプロジェクトに主体的に取り組む学び と説明しています。探究学習を具体的なプロジェクトとして設計する方法の一つとして、PBLを捉えるとわかりやすくなります。
10. SheSTEMの考え方
SheSTEM Japanでは、探究学習を、子どもたちの未来の選択肢を広げるための学び方として大切にしています。
子どもたちは、最初から自分の進路や得意分野を知っているわけではありません。だからこそ、早い段階で、身近なテーマから問いを立て、考え、試し、表現する経験が必要です。
探究学習を通じて、子どもたちは気づきます。
- 自分にも問いを立てられる
- 自分にも根拠を集めて考えられる
- 自分にも工夫できる
- 自分にも説明できる
- 自分にも社会や未来に関わる入口がある
この経験は、テストの点数だけでは測りきれません。けれど、子どもが学び続けていくうえで、大切な土台になります。
OECDのLearning Compass 2030では、知識やスキルだけでなく、子ども自身が自分の学びや社会に働きかける力である「student agency」 が重視されています。
SheSTEM Japanは、探究学習を通じて、子どもたちが問いを持ち、根拠をもとに考え、他者と関わりながら、自分の考えを育てていく学びをつくります。
まとめ|探究学習とは、問いを立て、考えを更新する学びです
探究学習は、自由研究でも、調べ学習でも、発表活動でもありません。
身近な現実から問いを立て、必要な情報を集め、根拠をもとに考え、他者と対話しながら、自分の理解を更新していく学びです。
そこでは、読む、比べる、分類する、数える、分析する、説明するなどの認知能力が使われます。同時に、うまくいかなかったときに考え直す力、他者の意見を聞く力、自分の思い込みに気づく力、もう一度試す力などの非認知能力も育まれていきます。
探究学習は、正解を早く出すための学びではありません。
何を問うべきかを見つけ、根拠をもとに考え、よりよい考えへ更新していく学びです。
