探究学習に、なぜSTEMが適しているのか
問いを立て、根拠で考え、試しながら学ぶために
探究学習とは、自由に調べて発表する学びではありません。
身近な疑問や違和感から問いを立て、必要な情報を集め、根拠をもとに考え、試し、振り返りながら、自分の理解を更新していく学びです。
では、その探究学習を子どもたちが具体的に経験するために、どのようなテーマや方法が適しているのでしょうか。
SheSTEM Japanでは、その有力な手段の一つがSTEMだと考えています。
STEMとは、Science・Technology・Engineering・Mathematics、つまり科学・技術・工学・数学の領域を指します。
ただし、ここで大切なのは、STEMを「理系科目」として狭く捉えないことです。探究学習の中では、STEMは問いを立て、根拠を集め、試し、考えを更新するための道具になります。
目次
1. 探究学習に必要なプロセスが、STEMの中に入っている
探究学習では、子どもが次のようなプロセスを経験します。
- 現実を見る
- 違和感に気づく
- 問いを立てる
- 仮説を持つ
- 情報を集める
- 比べる
- 試す
- 結果を見て考え直す
- 自分の考えを説明する
これは、STEMの学びのプロセスと非常によく重なります。
科学では、観察し、問いを立て、仮説を持ち、実験や調査を通じて確かめます。工学では、課題を見つけ、条件を整理し、試作品をつくり、改善します。数学では、数量や関係を整理し、根拠をもとに考えます。技術では、道具やデータを使って、情報を記録し、可視化し、検証します。
つまり、STEMには、探究学習に必要な「見る」「問う」「確かめる」「考え直す」という流れが自然に含まれています。
米国のNational Research Councilが示した K-12科学教育の枠組み でも、科学・工学の実践として、問いを立てる、モデルを使う、調査を計画・実行する、データを分析する、数学的・計算論的に考える、根拠にもとづいて説明する、情報を評価して伝えることなどが重視されています。
2. STEMは、「問い」を具体的にしやすい
探究学習で難しいのは、子どもが自分で問いを立てることです。
「好きなことを調べましょう」と言われても、子どもは何をどう考えればよいのかわからないことがあります。
一方で、STEMのテーマには、問いを立てやすい入口があります。
たとえば、身近な日用品を見ても、問いは生まれます。
- なぜ、このボトルは倒れにくいのか
- なぜ、このパッケージは開けやすいのか
- なぜ、この素材は水に強いのか
- なぜ、同じ量でも形が違うと大きさの印象が変わるのか
- なぜ、この商品は子どもには使いやすく、大人には使いにくいのか
こうした問いは、単なる感想では終わりません。
形、重さ、素材、角度、動き、摩擦、時間、量、使う人の行動など、観察できる要素に分けて考えることができます。
STEMは、問いを「なんとなく気になる」で終わらせず、
何を見ればよいか、何を比べればよいか、何を試せばよいかに変えていくことができます。
3. STEMは、根拠をもって考える練習になる
探究学習では、自分の意見を持つことが大切です。
ただし、意見だけでは探究にはなりません。必要なのは、根拠をもって考えることです。
STEMでは、根拠を扱う場面が多くあります。
- 測る
- 数える
- 比べる
- 記録する
- 表にする
- 図にする
- 条件を変えて試す
- 結果を見て考え直す
たとえば、「この容器は使いやすい」と感じたとします。そのままでは、ただの感想です。
でも、STEMの視点を入れると、考え方が変わります。
- どのくらいの力で開けられるのか
- 片手で使えるのか
- 中身がこぼれにくい角度はどれくらいか
- 小さい子どもと大人で使いやすさは違うのか
- 素材や形を変えると、結果はどう変わるのか
このように、感覚を観察やデータにつなげることで、子どもは「なんとなく」ではなく、根拠をもとに説明する経験を積むことができます。
OECDの PISA は、15歳の生徒が読解・数学・科学の知識やスキルを実生活の課題に使えるかを見る国際調査です。探究学習とSTEMの接続は、この「知識を使う」学びと近い方向にあります。
4. STEMは、うまくいかなかった経験を「考え直す材料」に変えやすい
探究学習では、うまくいかない経験も大切です。
最初に立てた仮説が違っていた。思ったような結果が出なかった。作ってみたら使いにくかった。測ってみたら予想と違った。
こうした経験は、単なる失敗ではありません。
STEMの学びでは、うまくいかなかった結果を、次に考えるための材料にできます。
- どの条件が違っていたのか
- どこで測り方がずれたのか
- どの部分を変えれば結果が変わるのか
- 別の方法なら確かめられるのか
この「結果を見て考え直す」経験が、探究学習の中では非常に大切です。
英国の Education Endowment Foundationは、メタ認知や自己調整を、自分の学びを計画し、進め方を確認し、振り返る力 として整理しています。STEMの探究では、試す、結果を見る、修正するという流れがあるため、このような自己調整の経験を具体的に扱いやすくなります。
5. STEMは、認知能力と非認知能力を同時に動かす
探究学習にSTEMが適している理由は、認知能力と非認知能力が同時に働くからです。
STEMの探究では、子どもは認知能力を実際に使います。
- 観察する
- 読む
- 数える
- 比べる
- 分類する
- 分析する
- 根拠を整理する
- 説明する
一方で、探究は一度でうまく進むとは限りません。
- もう一度試す
- 別の条件で比べる
- 友達の意見を聞く
- 自分の考えを修正する
- うまくいかなかった理由を振り返る
この過程で、粘り強さ、自己調整力、協働性、メタ認知、自分の行動を振り返る力などの非認知能力も育まれていきます。
STEMは「知識を覚える学び」だけではありません。
探究学習として設計することで、知識を使って考える力と、学びを進める力を同時に動かすことができます。
6. PBLとSTEMは、探究を「活動」に落とし込みやすい
探究学習は、学び方です。
PBLは、その探究学習を、具体的な課題やプロジェクトとして設計する方法です。
そしてSTEMは、そのPBLを動かすための材料になります。
たとえば、次のようなテーマが考えられます。
- 倒れにくいボトルを設計する
- 小学生が使いやすい文房具を考える
- 雨の日でも安全に歩ける通学路を考える
- 食品ロスを減らす給食の仕組みを考える
- 高齢者が開けやすいパッケージを設計する
これらは、ただの工作や発表ではありません。
観察する。使う人を見る。条件を整理する。仮説を立てる。試作品をつくる。使ってみる。改善する。根拠をもって説明する。
この流れが入ることで、PBLは探究学習になります。
PBLWorksは、Project Based Learningを、子どもが現実に近く、自分にとって意味のあるプロジェクトに主体的に取り組む学び と説明しています。PBLは、探究学習を具体的な活動に落とし込む方法の一つとして位置づけるとわかりやすくなります。
7. 日本の学びに不足しやすい経験を、STEMが補いやすい
日本の学びでは、知識を覚えること、問題を正確に解くことが重視されてきました。
もちろん、それ自体は大切です。基礎知識や計算力、読解力がなければ、深く考えることも難しくなります。
ただし、これだけでは不足しやすい経験があります。
- 問いを立てる
- 根拠を集める
- 条件を変えて試す
- うまくいかなかったことから考え直す
- 他者と対話しながら改善する
- 自分の考えを説明する
文部科学省も、探究的な学習では 「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」の過程が繰り返され、スパイラルに高まっていくこと が重要だとしています。
STEMは、この不足しやすい経験を具体的に設計しやすい領域です。
なぜなら、STEMには、観察、計測、比較、実験、設計、改善、説明という流れがあるからです。
STEMを探究学習に使うことは、理系科目を増やすことではありません。
子どもが「問いから考える経験」を積むための、現実的な方法です。
8. ただし、STEMをやれば自動的に探究になるわけではない
ここは大切です。
STEMの活動をすれば、それだけで探究学習になるわけではありません。
- 実験をした
- 工作をした
- プログラミングをした
- 発表をした
これだけでは、探究学習とは言えません。
必要なのは、問いがあることです。
- なぜこれを調べるのか
- 何を確かめたいのか
- どの根拠を見ているのか
- 結果から何が言えるのか
- 次に何を変えるのか
STEMは、探究学習にとても適しています。しかし、STEMを探究にするためには、問い、根拠、振り返り、改善が必要です。
だからこそ、大人の役割も大切です。
子どもに自由にやらせるだけではなく、問いを深める声かけ、観察の視点、根拠の扱い方、振り返りの時間を設計する必要があります。
9. SheSTEMがSTEMを使う理由
SheSTEM JapanがSTEMを扱うのは、子どもたちを早くから理系に決めるためではありません。
STEMには、探究学習に必要なプロセスが含まれています。
- 問いを立てる
- 観察する
- 測る
- 比べる
- 仮説を持つ
- 試す
- 改善する
- 根拠をもって説明する
このプロセスを、子どもが身近なテーマの中で経験できることに意味があります。
たとえば、美容、日用品、食、ヘルスケア、パッケージ、プロダクトデザインなどは、子どもにとって身近です。
でも、その裏側には、素材、構造、化学、工学、数学、ユーザー理解があります。
身近なものを入口にしながら、問いを立て、根拠を集め、考え、試し、伝える。
その経験を通じて、子どもたちは気づきます。
- 自分にも問いを立てられる
- 自分にも根拠をもとに考えられる
- 自分にも工夫できる
- 自分にも説明できる
- 自分にも社会や未来に関わる入口がある
SheSTEM Japanにとって、STEMはゴールではありません。
探究学習を具体的に動かし、子どもたちの未来の選択肢を広げるための手段です。
まとめ|STEMは、探究学習を具体的に動かす手段です
探究学習は、問いを立て、根拠を集め、考えを更新していく学びです。
STEMは、その探究学習と非常に相性がよい領域です。
なぜなら、STEMには、観察、問い、仮説、計測、比較、実験、設計、改善、説明というプロセスが含まれているからです。
ただし、STEMを扱えば自動的に探究学習になるわけではありません。大切なのは、活動そのものではなく、問いを立て、根拠をもとに考え、結果を振り返り、次の改善につなげることです。
STEMは、探究学習の目的ではありません。
STEMは、探究学習を具体的に経験するための手段です。
