― 女子児童が“考えること”を楽しむために ―
SheSTEM Japanは、女子児童が「考えること」や「挑戦すること」に喜びを見いだし、理系(STEM)への関心と 自己効力感(self-efficacy)を育むことを目的とする、日本発のSTEM教育プロジェクトです。
STEM(Science・Technology・Engineering・Mathematics)は、単なる学問の分類ではなく、「社会を理解するための言語」として位置づけます。学びの本質は正解を導くことではなく、数量・構造・関係を通して世界を読み解き、「なぜ」「どうして」と問いながら自らの考えを構築する過程にあります。
対象は主に小学校中学年から中学生の女子。この時期の女子が示す 「失敗への不安」や「理系は自分に向かない」といった自己認知に対し、 SheSTEMは“考える喜び”と“挑戦の肯定”を再構築する教育モデルを提供します。
Ⅰ.理論的枠組み
1. 二層スキャフォールド構造(AI×メンター協働モデル)
SheSTEMの教育メソッドは、AIと人間メンターによる協働的支援構造に基づきます。 この枠組みは、教育心理学におけるスキャフォールド(scaffold)理論*を現代的に応用したものです。
*スキャフォールド理論:建築の「足場(scaffold)」に由来し、学習者が自力では到達できない課題を他者の支援を通じて達成するための一時的な支えを意味する概念(Wood, Bruner, & Ross, 1976【1】)。
この理論はVygotsky(1978)の「発達の最近接領域(ZPD)」概念を基礎に持ちます。ZPDとは「一人ではできないが、他者の支援があればできる領域」を指し、教育とはこの領域で発達を促進する社会的相互作用の営みとされます【2】。
SheSTEMでは、このZPD理論を「認知×情動」の二層構造として再構成しています。
| 支援層 | 主体 | 支援の性質 | 教育的機能 |
|---|---|---|---|
| 認知的スキャフォールド | AI | 思考の可視化・問い返し・誤答再考 | 構造的思考力・推論力の形成 |
| 情動的スキャフォールド | メンター | 共感的対話・安心感の形成・ロールモデル提示 | 自己効力感・挑戦意欲の涵養 |
AIが「認知を引き上げ」、メンターが「情動を支える」。この二層スキャフォールド構造によって、学習者は「思考の深化」と「挑戦への安心」を同時に経験します。
2. メタ認知理論とMath Roots Method
SheSTEMの探究学習サイクル「Math Roots Method」は、Flavell(1979)によるメタ認知理論に基づいています。 メタ認知とは「自分の思考を意識し、制御する能力」であり、学習者が自らの理解をモニタリングし、戦略的に修正する力を意味します【3】。
Math Roots Methodの5ステップ(①状況把握→②関係発見→③仮説検証→④統合→⑤振り返り)は、学習者が自らの思考過程を意識化し、再構築するプロセスとして設計されています。AIはこの過程を記録・可視化し、メンターはその思考を言語化させる役割を担います。
3. 感情と認知の統合理論(Affective Neuroscience)
Immordino-Yang(2015)は、神経科学の研究に基づき「感情と認知は分離不可能であり、感情は学習の方向性と深さを決定する」と指摘しました【4】。 SheSTEMはこの理論を教育設計に統合し、女児が“安心して挑戦できる”心理的安全性を学びの中核に置いています。
これは、メンターの共感的対話や失敗の価値づけを通して実現され、AIの認知支援と組み合わさることで、思考と情動の統合的成長を促進します。
【1】Wood, D., Bruner, J. S., & Ross, G. (1976). The Role of Tutoring in Problem Solving. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 17(2), 89–100.
【2】Vygotsky, L. S. (1978). Mind in Society: The Development of Higher Psychological Processes. Harvard University Press.
【3】Flavell, J. H. (1979). Metacognition and Cognitive Monitoring. American Psychologist, 34(10), 906–911.
【4】Immordino-Yang, M. H. (2015). Emotions, Learning, and the Brain: Exploring the Educational Implications of Affective Neuroscience. W. W. Norton.
これら三つの理論は、SheSTEM Japanが掲げる「AIが認知を引き上げ、メンターが情動を支える」という教育設計の基盤を構成しています。 認知と情動を統合し、学びを「自分ごと化」することこそ、次世代のSTEM教育が目指す姿です。
4. 学び続けるための思考の6基礎力
SheSTEMでは、扱うテーマや教材の内容にかかわらず、
子どもが「気づく・考える・伝える」を自分の力で回していくための
6つの力を育てることを大切にしています。
これは、将来どの教科・どの進路を選んでも土台として生きる、
「学び続けるための思考の6基礎力」です。
1)センサーモニター|五感と心のアンテナで「小さな違い」に気づく力
目・耳・手ざわり・からだの感覚を使って、「なんか違う」「ここがいい」「ここが気になる」と感じ取る力です。 学びの出発点になるのは、この「小さな違和感や好奇心」に気づけるかどうかです。
- ノートや図形・グラフの中の「ちょっとした違い」に気づく
- 音の高さ・リズム、手ざわり・重さなどの変化を感じ取る
- 「なんとなく気になる」「ここだけ様子が違う」を大事にする
2)空間根拠力|形・位置・向きの関係から「どこに・どうあるか」を手がかりに考える力
「どこにある?」「どう並んでいる?」「どの向き?」といった、ものとものの位置関係を手がかりに考えられる力です。 図形や立体だけでなく、机の上の配置や教室の座席、地図など、あらゆる「空間の情報」を読み解く土台になります。
- 立体や図形を、向きを変えてイメージする
- 地図やルート図から、「どこに何があるか」を頭の中で思い浮かべる
- 机の上のものの置き方と、「作業のしやすさ」の関係を考える
3)構造視覚推論|見た目の配置やパターンから、その裏側の「しくみ」を読み取る力
図形・配置・パターンを見て、「じつはこういう並び方」「ここが1まとまり」など、背景にあるしくみを考える力です。 「ただ見る」から一歩進んで、「どういうルールでできているのか?」と考えられるようになります。
- 複雑な図形を「いくつかの簡単な形」に分けて考える
- 表やグラフの並びから、「増えている」「くり返している」パターンを読み取る
- 長い文章や情報の中から、「意味のまとまり」を見つけて整理する
4)実行ロジック機能|「どうやるか」を決めて、試し、修正していく実行力・段取り力
思いつきだけで動くのではなく、「こうしてみよう → やってみる → 直してみる」という流れを、自分で組み立てられる力です。 これは、勉強だけでなく、将来のプロジェクトや仕事の進め方にもそのままつながります。
- 宿題や自由研究を、「何から・どんな順番で」進めるか自分で決める
- 実験や工作の手順を考え、やってみながら必要に応じて手順を修正する
- 時間配分を考えながら、締切までに終わるように見通しを立てる
5)数量・数理の中核(意味のわかる算数)|数字を“意味のある量”としてイメージしながら考える力
3・5・10といった数字を、「どれくらい?」という量としてイメージできる力です。 式を解くことが目的ではなく、「この数字は現実のどんな大きさや違いを表しているのか」を結びつけて考えます。
- 買い物や料理などで、「だいたいどれくらい必要か」を見積もる
- 表やグラフを見て、「どれくらい増えた/減ったのか」をイメージする
- 割合・平均・速さなどを、式だけでなくイメージとセットで理解する
6)意味表現力(考えを外に出す力)|自分の考えを、ことば・図・作品で伝える力
「なんとなくわかる」で終わらせず、言葉・絵・図・作品・発表などの形で外に出して、人に伝える力です。 自分の考えを外に出すことで、初めて「どこまで理解できているか」「次に何を学べばよいか」が見えてきます。
- 自分の考えを、短い文章や図にまとめて説明する
- 友だちや大人と話しながら、相手に伝わるように言い方を工夫する
- 作品やプレゼンテーション・レポートなどの形で、学びのプロセスを残す
Ⅱ.教育デザインへの実装
1. Math Roots Method(マス・ルーツ・メソッド) © SheSTEM Japan
SheSTEM Japanの授業は、子どもの「考える力の根っこ(Roots)」を育てることを目的とし、 メタ認知理論に基づく5ステップ学習法「Math Roots Method」で設計されています。
| ステップ | 学びの焦点 | ねらい |
|---|---|---|
| ① 状況把握 | 問題を整理し、「何がわかっていて、何を求めるのか」を考える | 問題を自分の言葉で理解する力 |
| ② 関係発見 | 似ている・違うを見つける | パターンや関係を発見する力 |
| ③ 仮説検証 | 「こうかも?」を試してみる | 試行錯誤による柔軟な思考力 |
| ④ 統合 | 発見したことをまとめ、説明する | 論理的に表現する力 |
| ⑤ 振り返り | どんな考え方が役立ったかを見直す | 自分の考えを理解し、自信を持つ力 |
2. AIとメンターの協働(授業デザインモデル) © SheSTEM Japan
本プログラムでは、AIとメンターがそれぞれの強みを生かし、 「認知(思考)を支えるAI」と「情動と対話を支えるメンター」が補完しあう構造で設計されています。 子どもの学びに必要な“役割”に基づいた分担で、双方が自然に協働するモデルです。
A. メンターが担う役割(Zoomグループレッスン)
| フェーズ | メンターの働きかけ |
|---|---|
| 導入 | 興味喚起・情動の立ち上げ/問いへの“ワクワク”をつくる |
| 協働活動 | 対話・グループワーク支援/試行錯誤の伴走 |
| 共有 | 考えの言語化/学びの橋渡し |
| 振り返り | 学習の意味づけ/次の探究への動機づけ |
B. 家庭での学びを支える仕組み(AI × 親のかかわり × 日常の気づき)
家庭での学びは、机に向かう“セッション形式”ではなく、
日常の会話や体験の中で自然に「考える力」が育つ時間として設計しています。
AIは気づきのきっかけを提供し、親のかかわりは子どもの小さな発見や疑問を温かく受け止める──
そんな「生活に溶け込む学びのサイクル」です。
| タイミング | 起こる学び | AI・親のかかわり |
|---|---|---|
| 授業前(生活の中) |
日常からテーマに関連する「気づき」「問い」が自然に生まれる
(例:料理・買い物・移動中の会話)
|
AI:軽い問いかけで興味を起こす 親のかかわり:子どもの発言を肯定し、一言リアクション |
| 授業後(会話の中) | 今日の発見を「自分の言葉」で振り返り、理解が深まる |
AI:短い質問で思考整理をサポート 親のかかわり:「どこがおもしろかった?」と聞くだけでOK |
| 日常(散歩・食卓など) | 意図せず「なぜ?」が生まれる、日常の中の学びの瞬間 |
AI:小さなヒントで思考を広げる 親のかかわり:子どもの「なんで?」をそのまま大切にする |
この「生活に溶け込んだ学び」は、子どもが自分で問いを育て、
思考の根っこ(Roots)を太くするための重要なプロセスです。
SheSTEMでは、AI・親のかかわり・メンターが三位一体となり、
教室外の学びまで丁寧にデザインしています。
※ 本内容は SheSTEM Japan オリジナル教育デザインおよび指導メソッドに基づきます。
© SheSTEM Japan. All rights reserved.
