女子STEM離れを5段階で考える⑥|教育構造と探究学習

第6回|教育構造と探究学習
これまでの5回では、女子がSTEM・理系・技術系・ものづくり分野から距離を取っていく過程を見てきました。
幼児期から低学年に、数・形・空間・試行錯誤に触れる経験が、後の算数・数学の土台になること。小4〜小5になると、算数が計算中心の学びから、数量の関係を捉え、理由を説明する学びへと変わること。その転換につまずくと、男女を問わず、苦手意識や数学不安が生まれやすくなること。
さらに女子には、「数学や理系は男子向き」「工学やICTに女子はあまり関心を持たない」といったジェンダーバイアスが重なります。こうした経験と認識の積み重ねによって、理系・工学・ICT・技術・ものづくりが、進路を考える前から選択肢に入りにくくなります。
ここには、もう一つ見落とせない問題があります。
子どもたちが、算数・数学、理科、技術を、どのような学びとして経験しているかです。
正解を間違えずに出す教科なのか。
点数によって、得意か不得意かを判断される教科なのか。
それとも、身の回りや社会の中から問いを見つけ、学んだ知識を使って調べ、比べ、試し、考え直すための学びなのか。
同じ数学や理科でも、どのような学び方を経験するかによって、子どもが自分とSTEMとの関係をどう捉えるかは変わります。
これまでのシリーズ
正解を出すことだけが、学ぶ目的になっていないか
日本の学校教育には、すべての子どもに基礎的な知識や技能を保障してきた強みがあります。数学の基礎知識や計算技能を身につけることは、その後の学習にも、生活にも、仕事にも欠かせません。
現在の学習指導要領も、知識を覚えて正解することだけを目指しているわけではありません。算数・数学では、数学的な見方・考え方を働かせ、事象を数理的に捉え、問題を見いだし、考えを説明することが重視されています。学校教育全体でも、「主体的・対話的で深い学び」や探究的な学習が位置づけられています。
それでも、日々の授業やテストでは、答えが合っているか、何点取ったか、どれだけ速く解けたかが、理解や評価を表す分かりやすい指標になりやすい面があります。
文部科学省も、次期学習指導要領に向けた議論の中で、学習指導要領の理念や趣旨の浸透は「道半ば」であり、学ぶ意義を十分に見いだせず、主体的に学びに向かえていない子どもの存在を課題として挙げています。また、「正解主義」や「同調圧力」への偏りから脱却する必要性も示しています。 (文部科学省「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」)
正確に答えを出すことは大切です。しかし、それだけが学ぶ目的であり、その子の力を測る基準であるかのように見えてしまうことに問題があります。
高い数学力と、社会で使う自信の間にある差
日本の子どもたちは、国際的に見て数学の成績が低いわけではありません。一方で、数学を実生活や社会の中で使うことへの自信には、大きな課題があります。
PISA 2022の生徒質問調査では、次のような結果が示されています。
| 数学の課題に対する自信 | 日本 | OECD平均 |
|---|---|---|
| 実生活の課題に関連させて、数学的な解を求める | 30.0% | 52.5% |
| 実社会の問題の中から、数学的な側面を見つける | 22.7% | 51.2% |
文部科学省は、この結果について、日本の数学の授業では、日常生活と関連づけた指導を行う傾向がOECD平均より低いと整理しています。 (文部科学省「OECD生徒の学習到達度調査(PISA 2022)のポイント」)
計算問題を正しく解けることと、現実の問題の中から数学を見つけ、使えることは同じではありません。
商品の値引きは本当に得なのか。
地域によって人口構成はどう違うのか。
建物の断熱性能を何で比べればよいのか。
限られた材料で強い構造をつくるには、何を変えればよいのか。
数学が社会や仕事と結びついて見えなければ、数学は「何のために使うか」ではなく、「自分は得意か、不得意か」で判断する教科になりやすくなります。
正解と点数だけが前面に出ると、何が見えなくなるのか
正解や点数を中心にした学びの影響は、女子だけに生じるものではありません。問題を間違えたことで自信を失うことも、点数が下がったことで「自分は数学が苦手だ」と感じることも、男女のどちらにも起こります。
しかし女子には、そこに「数学が得意なのは男子」「理系には特別な才能が必要」「工学やICTに関心を持つのは男子」といったジェンダーバイアスが重なります。
第4回で見たように、数学不安は、成績の低い子だけに起こるものではありません。一定の学力があっても、間違えることへの不安が強ければ、本来の力を発揮しにくくなります。
さらに第5回で見たように、「数学は男子向き」というイメージを受け取っている女子にとって、問題をすぐに解けなかった経験が、「今回は分からなかった」ではなく、「やはり私は数学に向いていない」という自己判断につながることがあります。
正解の速さやテストの点数だけがSTEMへの適性に見えていると、次のような力は見えにくくなります。
- 身の回りの変化に気づき、疑問を持つ力
- 違いを比べ、関係を見つける力
- 必要な情報やデータを集める力
- 根拠から理由を考える力
- 試して、うまくいかなければ方法を変える力
- 相手に伝わるように説明する力
- 異なる考えを持つ人と、よりよい方法を考える力
これらも、科学、技術、工学、数学を使ううえで欠かせない力です。しかし、テストの点数だけでは、そのすべてを見ることはできません。
探究学習は、STEMを「使う学び」へつなぐ
この課題に対して必要なのは、数学や理科で学んだ知識や技能を使い、実生活や社会の中から問いを見つけ、情報やデータを集め、比較・分析し、試し、結果をもとに考え直す経験を増やすことです。
その方法の一つが、探究学習です。
文部科学省は、探究的な学習を「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」という過程で整理しています。この過程は一度で終わるものではありません。調べた結果から新たな疑問が生まれれば、問いを見直し、別の情報を集め、分析し直します。 (文部科学省「今、求められる力を高めるための学習指導」)
また、文部科学省はSTEAM教育を、各教科の学びを基盤としながら、実社会の問題発見・解決や社会的な価値の創造に結びつける教科横断的な学習として位置づけています。 (文部科学省「STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進」)
探究学習は、数学・科学・技術を、正解や点数だけで評価される科目から、社会の問題を理解し、解決策を考えるために使う学びへと接続する方法の一つです。
探究学習と自由研究は同じではない
自由研究が探究学習になることはありますが、自由研究という形式だけで探究学習になるわけではありません。
自由研究は、一般に、自分でテーマを決めて調べたり、観察したり、ものをつくったりして、成果物としてまとめる活動です。一方、探究学習の特徴は、テーマを自由に選べることではなく、問いを明確にし、根拠を集め、分析し、結果から考えを更新していく過程にあります。
たとえば、同じ「地域の川を調べる」というテーマでも、川にいる生き物を調べ、写真と説明をまとめる活動と、上流と下流で生き物の種類が違う理由を問い、水温、水質、流れの速さなどのデータを集めて比較する活動とでは、学びの過程が異なります。
後者では、何を調べれば問いを確かめられるかを考え、データを集め、予想と違う結果が出れば、理由や調査方法を見直します。
違いは「自由かどうか」ではなく、問いを立て、根拠を集め、考えを更新しながら、問いを深める過程があるかどうかです。
自由研究も、この過程を含めば探究学習になり得ます。しかし、調べた内容をまとめて発表するだけでは、必ずしも探究とはいえません。
知識・技能と探究は、どちらか一方ではない
探究学習というと、「知識を教えず、子どもに自由に考えさせる学び」のように受け取られることがあります。
しかし、知識がなければ、問いを深めることも、集めた情報の信頼性を判断することも、データを分析することもできません。
割合を知らなければ、二つの地域の変化を適切に比べられません。
面積や体積を知らなければ、限られた材料をどう使うか設計できません。
気温、熱、エネルギーについて知らなければ、建物の断熱について考えられません。
探究学習は、知識や技能を軽視する学びではありません。学んだ知識や技能を使い、「何が分かるのか」「まだ何が分からないのか」「次に何を学ぶ必要があるのか」を確かめる学びです。
必要なのは、「知識を身につけるか、探究するか」という選択ではなく、身につけた知識を、問いを考え、根拠を集め、問題を解決するために使うことです。
「調べて発表する」だけでは探究にならない
学校で「探究」と呼ばれる活動の中には、教師から与えられたテーマについてインターネットで情報を集め、スライドにまとめて発表するものもあります。情報を探し、整理し、伝えることにも意味があります。
しかし、それだけでは、次のような思考の過程が弱くなることがあります。
- 何を明らかにしたいのか
- なぜ、その情報が必要なのか
- どの情報を信頼できると判断したのか
- 集めた情報から、どのような関係が見えたのか
- 最初の予想と結果は、どこが違ったのか
- 結果を受けて、問いや方法をどう変えたのか
発表資料をきれいにつくることが目的になると、探究の評価も、見栄えや話し方に偏りかねません。
探究学習で見るべきなのは、完成した成果物だけではありません。問いがどう変わったか、どのような根拠を使ったか、予想と違う結果をどう捉えたか、方法をどう修正したか、自分の考えをどう説明し直したかという、学びの過程です。
探究学習にもジェンダーバイアスは入り込む
探究学習を取り入れれば、自動的に女子のSTEMへの選択肢が広がるわけではありません。探究活動の中でも、役割の渡し方によっては、これまでのジェンダーバイアスが再現されます。
理科の実験で、器具を操作するのは男子、結果を記録するのは女子。
ロボット制作で、組み立てやプログラミングは男子、発表資料や装飾は女子。
グループ活動で、男子が技術や判断を担当し、女子が進行、調整、記録を担当する。
このような役割分担が続けば、探究を行っていても、子どもは「誰が技術を扱う人か」「誰が支える人か」というイメージを学んでしまいます。
記録、表現、対話、調整も、探究に欠かせない重要な力です。問題は役割そのものではなく、性別によって経験できる役割が固定されることです。
女子も男子も、問いを立て、器具を操作し、データを集め、数値を分析し、設計・試作し、考えを説明し、チームを調整するという異なる経験を持てるようにする必要があります。
探究学習を女子STEM支援につなげるには、学習内容だけでなく、誰に、どの経験と役割を渡しているかまで見ることが欠かせません。
STEMへの入口を、点数以外にも広げる
探究学習では、一つの課題に対して、全員が同じ方法で考え、同じ答えに到達するとは限りません。
「なぜ、ここでは夏でも涼しいのだろう」という疑問から、気温、日射、風、建物の素材を調べる子がいるかもしれません。
「もっと持ちやすい容器をつくれないか」という関心から、形、重さ、材料、手の大きさを測り、試作品を改善する子がいるかもしれません。
「地域の移動を便利にしたい」という課題から、人口、時間、距離、利用者の声を集め、データを使って提案を考える子もいるでしょう。
そこでは、数学や科学への入口は、「計算が速い」「テストで高い点を取った」だけではありません。
- 不思議だと思った
- 違いを比べたい
- もっと使いやすくしたい
- 困っている人の役に立ちたい
- 原因をデータで確かめたい
こうした関心も、STEMにつながります。これまで自分を「数学が得意な子」「理系の子」だと思っていなかった女子にも、別の入口から、数学、科学、技術、工学との接点が生まれる可能性があります。
探究学習を行えば、すべての女子が理系を選ぶということではありません。しかし、テストの点数や一度の失敗だけを根拠に「自分は理系ではない」と判断する前に、自分の関心や力がSTEMとどうつながるのかを試す機会を増やすことはできます。
理系を選択肢として残すには、学び方も変える
目指すのは、正解のある問題をなくすことでも、テストや点数をすべて否定することでもありません。知識や技能を身につけ、正確に答えを出せることは必要です。
同時に、その知識を使って、問いを見つけ、現実の問題を数や科学の視点から捉え、情報やデータを集め、試し、結果から考え直し、異なる考えを持つ人と話し合い、よりよい方法を考える経験も必要です。
女子が理系を選ばない背景には、経験機会の差、小4以降の算数のつまずき、数学不安、ジェンダーバイアスだけでなく、数学や理科を、正解と点数によって適性を判断される科目として経験しやすい教育構造があります。
探究学習は、その構造を一度で解決する万能な方法ではありません。それでも、数学・科学・技術を、「正解を知っている人のための教科」から、自分の疑問や社会の課題を考えるために、誰もが使える学びへとつなぎ直すことができます。
理系を選択肢として残せる女子を増やすには、進路選択の場面で理系の情報を渡すだけでは足りません。
幼児期から進路選択までの間に、子どもがどのような問いを持ち、何を試し、どの役割を経験し、自分の力をどう捉えるか。学びの過程そのものを見直す必要があります。
最終回では、これまでの5段階と探究学習の視点を踏まえ、家庭、学校、企業が、女子の選択肢を狭めないために具体的に何を変えられるのかを考えます。


