女子STEM離れを5段階で考える 最終回|家庭・学校・企業にできること

最終回|家庭・学校・企業にできること
これまでのシリーズでは、女子がSTEM・理系・技術系・ものづくり分野から距離を取っていく過程を、5つの段階から見てきました。
幼児期から小学校低学年に、数・形・空間・ものづくりに触れる経験の幅がつくられること。
小4〜小5になると、算数が計算中心の学びから、数量の関係を捉え、理由を説明する学びへと変わること。
その転換に接続しにくい場合、男女を問わず、苦手意識や数学不安が生まれやすくなること。
さらに女子には、「数学や理系は男子向き」「工学やICTは男性の仕事」といったジェンダーバイアスが重なること。
そして、進路を具体的に考える段階に至る前に、理系・工学・ICT・技術・ものづくりが、自分の選択肢として見えにくくなることです。
第6回 では、正答や点数だけでは見えない力と、数学や科学を実生活や社会の問題に使う探究学習について考えました。
では、女子がSTEMを選択肢から外していく流れを、どこで変えることができるのでしょうか。
必要なのは、進路選択の直前になってから理系の魅力を伝えることだけではありません。幼児期から進路選択までのそれぞれの段階で、子どもがどのような経験を受け取り、つまずきをどう捉え、誰が技術を扱う姿を見て、自分とSTEMとの関係をどう考えるか。その過程を、家庭、学校、地域、大学、企業が、それぞれの立場から支える必要があります。
これまでのシリーズ
進路選択を支えるには、その前の「選択肢が残る学び」が必要
女子中高生に、理系の大学や仕事、女性研究者や技術者の姿を紹介する取組は、進路の選択肢を広げるうえで重要です。
しかし、STEMへの距離は、進路選択の場面で突然生まれるわけではありません。
幼児期から小学校低学年には、数・形・空間・ものづくりに触れる経験の幅がつくられます。小4以降には、算数が計算中心の学びから、数量の関係を捉え、理由を説明する学びへと変わります。
その過程で生じたつまずきが、苦手意識や数学不安として固定することがあります。さらに女子には、「数学や理系は男子向き」といったジェンダーバイアスが重なります。
そのため、進路を考える時点ですでに、
「算数が苦手」
「自分は理系ではない」
「技術やものづくりは、自分には関係がない」
と感じている場合があります。
幼児期や小学校段階に支援がまったくないわけではありません。家庭での遊びや体験、学校での学習支援、科学教室やものづくり体験など、さまざまな取組があります。
一方で、中高生を対象とした進路選択支援に比べると、苦手意識が生まれ、固定する前の段階を対象にした予防的な取組は、地域や学校によって差があり、継続的な仕組みとしては見えにくいのが現状です。
進路選択の段階で情報やロールモデルを届ける取組とともに必要なのは、そこに至るまでに、算数・数学への苦手意識や不安によって選択肢を失う子どもを、一人でも減らすことです。
進路選択支援と、苦手意識が固定する前の学びを、二つの別々の取組にしないことが重要です。
幼児期から、経験の幅を性別で狭めない
幼児期から小学校低学年に必要なのは、早く計算を教えることではありません。
数える、比べる、分ける、並べる、測る、形を動かす、組み立てる、変化を見る、理由を話す。こうした経験を、遊びや生活の中で重ねることです。
ブロック、工作、地図、パズル、ボール遊び、虫や植物の観察、料理、買い物、片づけなど、数・形・空間・順序・変化に触れる場面は、日常の中にあります。
女の子が人形やごっこ遊びを楽しむことに問題があるわけではありません。男の子がブロックや乗り物に関心を持つことにも問題はありません。
見直したいのは、本人の関心や能力を確かめる前から、「男の子向け」「女の子向け」と経験を分けて渡していないかということです。
家庭でできることは、女の子に特別な理系教育をすることではありません。
「何が好きか」だけでなく、
「まだ試していないことは何か」
「触れる機会が少なかった経験はないか」
を見ることです。子どもの関心は、経験する前から完成しているものではありません。触ってみる、試してみる、分からなくても続けてみる。その機会があって初めて、関心や得意意識が育つことがあります。
「できない」を、適性の判定に変えない
小4〜小5になると、算数は、計算手順だけでなく、数量の意味や関係を理解し、図・式・言葉を行き来しながら説明する学びへ変わります。
それまで計算ができていた子でも、分数、割合、単位量、比例になると、何を基準に考えるのかが分からなくなることがあります。
ここで大人が、
「算数が苦手なのかもしれない」
「理系には向いていないのではないか」
と早く結論づけると、子ども自身も、一時的なつまずきを、自分の適性として受け止めやすくなります。
必要なのは、答えが合っているかだけで判断することではありません。
- どこまでは分かっているのか
- 何と何の関係が捉えにくいのか
- 図にすると分かるのか
- 言葉で説明すると、どこで止まるのか
- 別の方法で考え直せるか
学習の過程を見ることです。
「間違えたから向いていない」のではなく、「どこで考え方を変える必要があるのか」を一緒に探す。
この関わりは、女子だけでなく、すべての子どもに必要です。そのうえで、女子には「数学は男子向き」という社会的イメージが重なることを踏まえ、同じ失敗が「自分は向いていない証拠」にならないようにする必要があります。
学校では、正答だけでなく、考えた過程を見る
学校には、すべての子どもに基礎的な知識や技能を保障する重要な役割があります。
同時に、正答や点数だけでは見えない力を、学びの中で捉える役割もあります。
- 問いを見つける
- 違いを比べる
- 根拠を集める
- データから関係を考える
- 予想と違う結果を受けて、方法を変える
- 自分の考えを説明し直す
- 他者の考えを取り入れ、よりよい方法を考える
これらは、探究学習だけで突然育つ力ではありません。
日々の算数や理科の授業でも、
「なぜ、その式になるのか」
「ほかの方法はないか」
「条件が変わると、どうなるか」
「この結果から何が言えて、何はまだ言えないか」
を考えることで育ちます。
探究学習は、こうした力を、実生活や社会の問いの中で使う機会になります。
情報を集め、スライドを作り、発表して終わるのではなく、問いがどう変わったか、どのような根拠を使ったか、どのように比較・分析したか、予想と違う結果から何を考え直したかという過程を見ることが重要です。
探究の中で、役割を性別によって固定しない
探究学習やグループ活動を取り入れても、役割の渡し方が変わらなければ、ジェンダーバイアスは残ります。
理科の実験では、男子が器具を操作し、女子が記録する。
ロボットや模型の制作では、男子が組み立て、女子が発表資料をつくる。
ICTを使う活動では、男子が端末やプログラムを操作し、女子が進行や調整を担当する。
こうした役割分担が繰り返されると、子どもは活動内容だけでなく、
「誰が技術を扱う人なのか」
「誰が支える人なのか」
というイメージも学びます。
記録、表現、対話、調整も、探究に欠かせない重要な役割です。見直すべきなのは、性別によって経験する役割が固定されることです。
女子も男子も、問いを立て、器具を操作し、データを集め、数値を分析し、設計・試作し、考えを説明し、チームを調整するという異なる経験を持てるようにする必要があります。
自分が技術を扱い、試し、改善した経験は、職業情報を聞くだけでは得られない自己認識につながります。
ロールモデルは、成功した女性を見せるだけでは足りない
女子STEM支援では、女性研究者、技術者、エンジニアなどのロールモデルを見せることが重視されています。
しかし、特別な才能を持ち、迷いなく理系に進み、成功した女性だけを紹介すると、かえって、
「自分とは違う」
「そこまで優秀でなければ進めない」
と感じることがあります。
必要なのは、肩書きや成果だけではありません。
- なぜ、その仕事に関心を持ったのか
- 最初から理系が得意だったのか
- どこで迷ったのか
- 何が分からなかったのか
- 誰に助けてもらったのか
- どのように学び直したのか
- どのような人と協力して仕事をしているのか
仕事に至るまでの過程と、実際の仕事の進め方を見せることです。
ロールモデルの役割は、「この人のようになりなさい」と示すことではありません。「こういう働き方もある」「自分の関心も、ここにつながるかもしれない」と、将来像の幅を広げることです。
企業は、仕事を紹介するだけでなく、仕事を学びに変える
企業が学校教育や女子STEM支援に関わる場合、会社説明や職業紹介だけで終わることがあります。
「この会社には、こんな技術があります」
「女性エンジニアも活躍しています」
「理系に進むと、このような仕事があります」
こうした情報も必要です。しかし、職業情報を聞くだけでは、その仕事と自分との接点は生まれにくいものです。
企業には、学校の学びを実社会の問いに変える材料があります。
- なぜ、この素材は熱を通しにくいのか
- 限られた材料で、より強い構造をつくるにはどうすればよいか
- 工場のエネルギー使用量を減らすには、どのデータを調べればよいか
- 高齢者にも使いやすい製品を、どのように設計するか
- 地域の移動を便利にするには、どのような情報が必要か
こうした問いには、一つの正解があるとは限りません。
子どもは、数学、科学、技術、社会、言語など、学校で学んだ知識を使いながら、調べ、比べ、試し、考え直します。
その過程で、
「算数や理科が、社会でこう使われている」
「技術の仕事は、機械を扱うだけではない」
「人の困りごとを理解し、よりよい方法を考える仕事でもある」
「自分の関心も、STEMの仕事につながるかもしれない」
という認識が生まれます。企業が提供できるのは、完成した技術を見せることだけではありません。どのような問いから仕事が始まり、何を測り、どこで失敗し、どう改善したのか。仕事の過程を、子どもが考えられる学びに変えることです。
今ある取組を、子どもの成長に沿ってつなぐ
2026年の「女性活躍・男女共同参画の重点方針」では、大学の工学系学部における女子学生割合を、2025年の18%から2040年に36%へ倍増させる目標が示されました。
女子児童・生徒、保護者、教員に理工系分野への興味・関心を喚起することや、大学、企業、地域が連携して女子の理系進路選択を支えることも盛り込まれています。 (内閣府「女性活躍・男女共同参画の重点方針2026」)
進路選択を社会全体で支える方向が明確になったことは、大きな前進です。
その取組を、より多くの子どもに届くものにするためには、進路選択の段階だけでなく、そこに至るまでの学びも同じ時間軸の中で捉える必要があります。
家庭では、経験の幅を性別で狭めず、子どもの疑問や試行錯誤を支える。
学校では、知識や技能を教えるとともに、つまずきを早い段階で捉え、理由を考え、説明し、学んだことを実生活や社会の課題に使う経験をつくる。
大学や地域では、学校だけでは出会えない専門性や多様なロールモデルとの接点を、継続的に届ける。
企業では、実際の技術、仕事、データ、働く人との接点を、子どもが考え、試せる問いに変える。
大切なのは、これらを単発のイベントとして並べるのではなく、子どもの成長に沿ってつなぐことです。
家庭で生まれた「なぜ」が、学校で学ぶ知識や方法につながる。
学校で学んだことが、企業や地域の課題を考えるために使われる。
社会との接点から生まれた新たな疑問が、再び学校や家庭での学びに戻る。
この循環があれば、数学、科学、技術、ものづくりは、テストのためだけの科目ではなく、自分の関心を社会につなぐ手段になります。
成果は、理系進学者数だけでは測れない
女子STEM支援の成果は、理系進学者数や工学系学部の女子学生割合によって示されることが多くあります。
最終的な進路選択は重要です。しかし、進路を選ぶまでの間にも、見るべき変化があります。
- 数や形、ものづくりに触れる経験が増えたか
- 間違えた後に、もう一度考えようとするか
- 「苦手だから向いていない」と早く決めつけていないか
- 実験、設計、データ分析、ICT操作などの役割を経験したか
- 数学や理科が、社会や仕事でどう使われるかを説明できるか
- 工学、ICT、技術、ものづくりを、自分にも関係のある仕事として想像できるか
- 進路を考えるときに、理系を選択肢として残しているか
こうした変化も、理系進学に至る前の重要な成果です。
最終的な進学者数とともに、苦手意識、自己認識、経験した役割、社会や仕事との接続がどのように変化したかを見ることで、進路選択に至る前の離脱を捉えやすくなります。
選択肢は、進路選択の場面で突然現れるものではありません。幼児期からの経験、学習での成功と失敗、周囲の言葉、役割の経験、仕事との出会いによって、少しずつ形づくられます。
目指すのは、関心や可能性を試す前に、選択肢が消えないこと
女子全員が理系を選ぶ必要はありません。
文系、理系、芸術、スポーツなど、どの道を選ぶかは本人が決めることです。
見直さなければならないのは、自分の関心や可能性を実際に試す前に、
「数学が得意ではないから」
「一度、点数が下がったから」
「女子は工学に向いていないと言われたから」
「技術の仕事を身近に見たことがないから」
という理由で、STEMが選択肢から消えてしまうことです。
必要なのは、女子に理系を一方的に勧めることではありません。
すべての子どもに、数、形、科学、技術、ものづくりに触れ、問いを持ち、試し、考え直す経験を渡すこと。
その共通の学びの土台の上で、女子の経験、役割、自己認識、将来像を狭めるジェンダーバイアスを見直すこと。
そして、家庭、学校、地域、大学、企業が、それぞれの場で生まれた学びを、子どもの成長に沿ってつなぐことです。
理系を選択肢として残せる女子を増やすとは、女子に特定の進路を選ばせることではありません。
自分の関心や可能性を実際に試したうえで、自分の進路を選べる状態をつくることです。
女子STEM離れを変えるために必要なのは、進路選択の場面だけに働きかけることではありません。
理系に進む女子を増やす取組と、理系を考える前に離れていく子どもを減らす取組を、幼児期から進路選択まで切れ目なくつなぐことです。
SheSTEM Japanが目指すこと
算数・数学への苦手意識やジェンダーバイアスによって、理系を考える前に選択肢を失う女子を一人でも減らし、自分の関心と可能性を試したうえで進路を選べる学びの環境をつくることです。

