女子STEM離れを5段階で考える②|小4の壁とは

ブロックで遊ぶ幼い女の子と、算数のノートを前に考え込む小学生の女の子を並べ、小4前後で計算から説明へ学びが変わる様子を表した画像。

女子のSTEM離れは、高校や大学で文系・理系を選ぶ直前に、突然始まるわけではありません。

その前から、算数や数学への苦手意識、理系・技術系への距離感、「自分には関係なさそう」という感覚が、少しずつ重なっていく可能性があります。

その中でも大きな分岐点の一つが、小4前後で見えやすくなる算数のつまずきです。

いわゆる「小4の壁」です。

小4の壁というと、急に計算が難しくなることのように思われがちです。

しかし本質は、単に計算の桁が増えることではありません。

算数の学びが、
答えを求める学びから、
数量の関係を捉え、その関係を使って考え、理由を説明する学びへ変わっていくことにあります。

小4の壁は「計算ができない」だけの問題ではない

低学年の算数では、たし算、ひき算、かけ算、わり算など、具体的な数を扱う学習が中心です。

もちろん低学年の算数にも考える力は必要です。
ただ、子どもにとっては「計算して答えを出す」ことが、学習の中心に見えやすい時期でもあります。

ところが、小4前後になると、算数の中身が少しずつ変わっていきます。

分数。
割合。
単位量あたりの大きさ。
比例。
式で関係を表すこと。
理由を言葉で説明すること。

ここでは、目の前の数字を計算するだけでは足りません。

数字と数字の関係を読み取り、
その関係を別の場面に使い、
なぜそう考えたのかを説明する力が求められます。

ここで、計算はできるのに、説明で止まる子が出てきます。

ゴムひも問題で見る「小4の壁」

たとえば、次のような問題があります。

動画をYouTubeで見る

Aのゴムひもは、20cmから60cmに伸びました。
Bのゴムひもは、80cmから160cmに伸びました。

どちらのゴムひもの方が、よく伸びるでしょうか。

この問題では、伸ばした後の長さを、もとの長さで割ります。

Aは、
60 ÷ 20 = 3
なので、3倍に伸びています。

Bは、
160 ÷ 80 = 2
なので、2倍に伸びています。

3倍と2倍を比べると、Aの方がよく伸びることが分かります。

ここまでは、前と後の長さを比べて、何倍に伸びたかを求める問題です。

文部科学省の調査でも、このように割合を求める問題では、一定数の子どもが正答できています。

しかし、次の問題になると、正答率が大きく下がります。

つまずきは「3倍・2倍」を出した後にある

次の問題では、条件が変わります。

AもBも、もとの長さが120cmだったら、伸ばした後に長くなるのはどちらでしょうか。
理由も説明してください。

ここで必要なのは、もう一度単に計算することではありません。

さきほど求めた、
Aは3倍に伸びる。
Bは2倍に伸びる。
という結果を、伸び方の関係として捉え直すことです。

Aは、20cmのときだけ60cmになるゴムひもではありません。
もとの長さが変わっても、3倍に伸びるゴムひもです。

Bも、80cmのときだけ160cmになるゴムひもではありません。
もとの長さが変わっても、2倍に伸びるゴムひもです。

だから、もとの長さがどちらも120cmなら、

Aは、
120 × 3 = 360cm

Bは、
120 × 2 = 240cm

となり、Aの方が長くなります。

ここで問われているのは、単なる計算力ではありません。

3倍・2倍という計算結果を、
もとの長さが変わっても成り立つ関係として捉え、
その関係を使って新しい条件で考え、
さらに理由として説明する力です。

ここが、小4の壁の本質です。

正答率が下がるのは、思考の段階が一つ増えるから

文部科学省の「令和4年度 小学校学習指導要領実施状況調査」では、割合を求める問題の通過率は76.1%でした。

一方で、求めた割合をもとに、伸びた後の長さの大小を判断し、その理由を説明する問題では、通過率が40.7%まで下がっています。

つまり、子どもたちは「割合を求める」ことだけでつまずいているわけではありません。

問題は、その先です。

求めた割合を、別の場面で使う。
その結果を比べる。
なぜそうなるのかを言葉で説明する。

このように、思考の段階が一つ増えたところで、止まりやすくなるのです。

整理すると、次のような流れです。

数字を見る。
計算する。
関係を捉える。
その関係を別の条件で使う。
理由を説明する。

このうち、計算まではできても、
「関係を捉える」
「関係を使う」
「理由を説明する」
ところでつまずくことがあります。

だから、小4の壁は、単に「計算が難しくなる壁」ではありません。

数字を見て、関係を読み、理由を説明する力の壁なのです。

「できない」ではなく、学び方が変わるタイミング

ここで大切なのは、子どもを「算数ができない」と見ないことです。

小4前後で起きているのは、子どもの能力が急に下がることではありません。

学びの質が変わるのです。

答えを求める学びから、
関係を読み取る学びへ。

やり方を覚える学びから、
意味を考える学びへ。

計算する学びから、
理由を説明する学びへ。

この変化にうまく乗れないと、子どもは「急に算数が難しくなった」と感じます。

そして、何度か説明で止まる経験が重なると、
「自分は算数が苦手なのかもしれない」
と思いやすくなります。

この感覚は、その後の数学不安や、理系への距離感にもつながる可能性があります。

小4の壁は、小4で突然現れるわけではない

では、小4の壁を越える力は、いつ育つのでしょうか。

実は、その手前にある日常の経験が大きく関わっています。

どちらが多いかを比べる。
同じ数ずつ分ける。
順番に並べる。
形を回して見る。
別の置き方を試す。
どうしてそう思ったのかを話す。

こうした経験は、一見すると遊びや生活の中の小さなやりとりに見えます。

でも、そこには算数の土台があります。

数を比べる。
量を感じる。
形を動かす。
変化を見る。
理由を言葉にする。

こうした小さな経験の積み重ねが、あとから数量の関係を読み、考え、説明する力につながっていきます。

小4の壁は、小4で突然現れるものではありません。

その手前にある、考える経験の積み重ねによって、越えやすくなる壁です。

親ができることは、答えを教えることだけではない

家庭でできることは、特別な先取り学習だけではありません。

むしろ大切なのは、生活の中で考える場面を増やすことです。

たとえば、こんな声かけです。

どっちが多い?
どう分けたら同じ数になる?
半分にするにはどうしたらいい?
回したらどう見える?
違う置き方はある?
どうしてそう思ったの?
別の考え方はある?

こうした問いかけは、すぐにテストの点数に結びつくものではないかもしれません。

でも、子どもが数や形や量を見て、動かして、言葉にする経験になります。

小さな問いかけが、あとから考える力になる。

その積み重ねが、小4の壁を越える力につながっていきます。

女子STEM離れを考えるうえで、なぜ小4の壁が重要なのか

女子のSTEM離れを考えるとき、高校で理系を選ぶかどうか、大学で工学部や情報系を選ぶかどうかに注目しがちです。

もちろん、進路選択の時期の支援も重要です。

しかし、その時点で初めて理系に距離を感じるわけではありません。

もっと前の段階で、
算数が苦手かもしれない。
数学は自分に向いていないかもしれない。
理系は自分とは関係ないかもしれない。
という感覚が少しずつ生まれている可能性があります。

小4の壁は、その一つの分岐点です。

ここで必要なのは、女子に「もっと理系を選ぼう」と言うことではありません。

算数や数学を、点数や正解だけで見るのではなく、
数や形や量の関係を考えるものとして経験できるようにすること。

そして、説明できないことを「向いていない」と受け止めるのではなく、
考え方を育てている途中だと捉えられる環境をつくることです。

女子のSTEM離れは、能力差の問題ではありません。

小さな経験の差、声かけの差、社会的なイメージの差が重なり、
理系や技術系が「自分の選択肢」として見えにくくなっていく可能性があります。

だからこそ、小4の壁を、単なる算数のつまずきとしてではなく、
その後の学び方や進路意識につながる大切なサインとして見ていく必要があります。

次回は、幼児期〜低学年の経験差を考えます

小4の壁は、小4で突然生まれるものではありません。

その手前には、数える、比べる、分ける、並べる、形を動かす、組み立てる、理由を話すといった経験があります。

では、こうした経験は、どのように生まれるのでしょうか。

そして、なぜ男の子と女の子で、数や形や空間にふれる機会に差が出ることがあるのでしょうか。

次回は、幼児期〜低学年の遊びや声かけに注目し、
理系の入り口が、計算ドリルではなく、日常の遊びや経験の中にあることを考えていきます。

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